特別受益と生前贈与加算は違う!遺留分の特別受益の持ち戻しとは?

「生前贈与は、亡くなる前3年(改正後は7年)以内のものしか関係ないですよね?」

相続の相談を受けていると、このような質問をよく耳にします。 しかし、これは**「相続税」の話であって、「遺産分割(遺留分)」**の話とは全く別物であることをご存知でしょうか?

実は、相続においては2つの異なる「持ち戻し(計算への足し戻し)」ルールが存在します。

  1. 相続税法上の持ち戻し(生前贈与加算):税金を計算するためのルール
  2. 民法上の持ち戻し(特別受益):遺産を公平に分けるためのルール

この2つを混同していると、**「税金の計算は合っているのに、遺産分割で兄弟から訴えられた」**という事態になりかねません。

今回は、勘違いしやすい「特別受益」と「生前贈与加算」の違い、そして遺留分計算における「特別受益の持ち戻し」について徹底解説します。

目次

全く別物!「生前贈与加算」と「特別受益」の違い

まずは、この2つの制度が「何のためにあるのか」を整理しましょう。

1. 生前贈与加算(相続税法)

  • 目的: 税金逃れ(駆け込み贈与)を防ぐため。
  • ルール: 亡くなる前**3年以内(改正後は7年以内)**の贈与は、なかったことにして相続財産に足し戻し、相続税を計算する。
  • 対象: 相続人への贈与。

2. 特別受益の持ち戻し(民法)

  • 目的: 相続人同士の不公平をなくすため。
  • ルール: 特定の人だけが生前に受け取った利益(特別受益)は「遺産の前渡し」と考え、計算上遺産に足し戻して、**遺留分(最低限の取り分)**を計算する。
  • 対象期間: 原則として10年以内(相続人に対するもの)。

つまり、税金の計算では「7年前」まで遡ればOKですが、兄弟間で遺産を分ける話し合い(遺留分)においては、「10年前」まで遡って計算しなければならないのです。

「特別受益」になるもの・ならないもの

では、具体的にどのような贈与が「特別受益(えこひいき)」とみなされるのでしょうか? 「生計の資本としての贈与」かどうかが判断基準となります。

特別受益に「なる」可能性が高いもの

  • 住宅資金の援助: マイホームの購入資金、土地の贈与など。
  • 事業資金の援助: 開業資金など。
  • 借金の肩代わり: 親が子の借金を代わりに返済した場合。
  • 高額な学費: 留学費用や医学部の学費など(他の兄弟と著しい差がある場合)。
  • 相続税対策の贈与: 暦年贈与(年間110万円)であっても、長年続いていれば対象になります。

特別受益に「ならない」もの

  • 少額の贈与: お小遣い、お年玉、常識の範囲内の入学祝い・結婚祝い。
  • 通常の生活費・学費: 親の扶養義務の範囲内である生活費や、通常の大学費用など。
  • 生命保険金: 原則として対象外ですが、受取額が極端に高額で不公平な場合は対象になることもあります。

遺留分計算における「持ち戻し」のルール

2019年(令和元年)の民法改正により、遺留分を計算する際の特別受益の持ち戻しには期間制限が設けられました。

期間制限(ここが重要!)

  • 相続人への贈与: 相続開始前10年以内のものに限る。
  • 相続人以外(第三者)への贈与: 相続開始前1年以内のものに限る。

以前は「何十年前の贈与でも持ち戻す」というルールでしたが、改正により「10年前まで」と限定されました。 とはいえ、税金の「3年〜7年」よりも期間が長いため、注意が必要です。

評価額は「いつ」の時点?

ここも税金計算とは異なります。

  • 相続税(生前贈与加算): **「贈与時」**の価額で計算
  • 遺留分(特別受益): **「相続開始時(死亡時)」**の価額で計算

例えば、贈与された株式や不動産が、贈与時より大きく値上がりしていた場合、遺留分の計算では**「値上がりした高い金額」**で計算されるため、請求される額が増える可能性があります。

「持ち戻し免除」の意思表示とは?

親が「長男には家を建ててやったが、これは遺産の前渡しとして計算しなくていい(持ち戻さなくていい)」という意思を示していた場合、原則として持ち戻し計算は不要になります。これを**「持ち戻し免除の意思表示」**といいます。

  • 遺産分割協議: 有効です。免除があれば持ち戻しません。
  • 遺留分の計算: 無効です。たとえ親が「免除する」と言っていても、他の兄弟の遺留分(最低限の権利)を侵害している場合は、計算に含めなければなりません。

ただし、**「結婚20年以上の夫婦間で行われた居住用不動産の贈与」**については、特例により遺留分計算でも持ち戻し免除(計算に入れない)と推定されます。

まとめ:税金と遺留分、ダブルで計算が必要

相続対策として生前贈与を行う場合、以下の2つの視点でシミュレーションする必要があります。

  1. 対 税務署(相続税): 直近7年以内の贈与は持ち戻される。
  2. 対 家族(遺留分): 過去10年以内の贈与は持ち戻される。

「税金の計算上は問題ないから」と安心していると、死後に「遺留分侵害額請求」という形で家族間の争いが起きてしまうかもしれません。

『簡単相続ナビ』でリスクをチェック

「自分の贈与計画は大丈夫?」 「遺留分を侵害しない範囲で贈与したい」

そう考えたら、まずは数字でシミュレーションしてみることが大切です。 ミラーマスターが提供する**『簡単相続ナビ』**は、Web上で相続税の試算ができるツールです。

  • 生前贈与を加味した相続税額の試算
  • 遺留分を考慮した配分シミュレーション

これらを事前に確認し、税金対策とトラブル対策の両立を目指しましょう。

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この記事を書いた人

ミラーマスター合同会社代表社員の鏡 孝正です。
私たちは、専門家任せになりがちな「相続」を、皆様がご自身の手でコントロールできるべきだと考えてます。
弊社のシステムコンサル技術を結集した『簡単相続ナビ』
で、ご家族の「安心の相続」をサポートします。
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