現金と預貯金の調査は「スピード」と「正確さ」が命
ご家族が亡くなられた直後は悲しみの中にありますが、相続手続きは期限との戦いです。
特に最優先で調査しなければならないのが、**「現金・預貯金(流動資産)」**です。
なぜなら、不動産などの固定資産とは違い、すぐに使ってしまいやすいため「残高が合わない」というトラブルになりやすく、また相続税の支払いは原則「現金一括払い」であるため、手元にいくらあるかを知ることが納税の生命線となるからです。
この記事では、見落としがちな預貯金の調査方法と、計算ミスが起きやすい「定期預金の評価」、そして税務署に隠し財産がバレる理由について解説します。
1. なぜ「現金・預貯金」の額が重要なのか?(納税資金の確保)
相続財産には不動産や株式も含まれますが、最も重要なのは「すぐに使えるお金(流動資産)」がいくらあるかです。
「黒字倒産」ならぬ「相続破産」のリスク
例えば、以下のようなケースを想像してみてください。
- 遺産総額: 2億1,000万円
- 不動産(家・土地):2億円
- 預貯金:1,000万円
- 相続人: 子供1人のみ
- 相続税額: 約4,800万円(概算)
この場合、子供は2億円の資産を相続しますが、手元の現金は1,000万円しかありません。
しかし、税務署には現金で4,800万円を支払う必要があります。つまり、3,800万円の現金が不足してしまうのです。
こうなると、住むための家を売却して納税資金を作るしかありません。
このような事態を防ぐためにも、まずは「現金がいくらあるか」を正確に把握し、納税額と比較するシミュレーションが不可欠なのです。
2. 徹底解説!現金・預貯金の調査方法
「通帳に書いてある残高を見ればいい」だけではありません。隠れた財産を見つけ出すプロ(税理士や税務署)の視点をご紹介します。
① 現金の調査(タンス預金・財布)
財布の中身はもちろん、自宅の金庫、タンスの引き出し、本棚の隙間などに現金(いわゆるタンス預金)がないか確認します。
金融機関は名義人が亡くなられたことを確認すると普通預金や定期預金など全ての口座を凍結します。
なお、預金口座の中に入っているお金は、相続人全員の合意をもって引き出すことができます。
ただし、2019年7月1日から相続開始後遺産分割が済むまでの間であっても相続人が預貯金の一部(法定相続分に満たない額)を出金できるように変更されました。
全額ではありませんが、出金したお金で葬儀費用を支払ったり当面の生活費に充てたりすることも可能です。
これらも立派な相続財産であり、申告漏れがあれば重いペナルティの対象となります。
② 通帳は「情報の宝庫」!取引履歴から読み解く
通帳が見つかったら、残高だけでなく「過去の入出金履歴」を確認してください。そこには他の財産のヒントが隠されています。
| 通帳の記載内容 | そこから推測できる財産 | 確認すべきアクション |
|---|---|---|
| 配当金・利息 | 株式・国債・投資信託 | 証券会社へ口座の有無を照会する |
| 給料の振込 | 死亡退職金 | 会社名等を調べて職場に連絡する |
| 保険料の引落し | 生命保険・損害保険 | 保険会社へ契約内容(解約返戻金など)を確認する |
| 家賃収入 | 賃貸不動産・駐車場 | 所有不動産の権利関係を確認する |
| 貸金庫手数料 | 貸金庫 | 銀行へ開扉手続きを依頼(貴金属や権利証がある可能性大) |
| 多額の出金 | タンス預金・生前贈与 | 手元現金の確認、贈与契約書の有無を確認 |
| クレジットカード | 未払いの債務 | マイナスの財産として相続財産から控除できる |
| 公共料金の引き落とし | 未払いの債務 | 電気、水道、ガス、新聞やNHKなどの公共料金の支払いと停止 (死亡後に発生した公共料金は相続人が支払う必要あり) |
③ ネット銀行・暗号資産の調査
通帳がない「ネット銀行」や「暗号資産(仮想通貨)」は見落としがちです。
故人のスマートフォンやパソコンを確認し、銀行系アプリや取引所からのメールが届いていないかチェックしましょう。
3. 【要注意】預貯金の評価方法と「定期預金の利子」
預貯金の価値(相続税評価額)は、原則として**「亡くなった日の残高」**です。
しかし、種類によって計算方法が少し異なります。
普通預金
- 評価額 = 亡くなった日の残高
- 少額の利息は計算しなくてOKです。
定期預金(ここが落とし穴!)
定期預金は、残高だけでなく**「利子」も財産として計算する必要があります。これを「既経過利息(きけいかりそく)」**と呼びます。
- 評価額 = 残高 + (解約した場合に支払われる利子 - 税金)
なぜ利子も計算するの?
定期預金は本来、満期まで預けるものですが、もし亡くなった日に解約したとしても、それまでの期間分の利子はもらえます。その「もらえる権利」も立派な財産だからです。
金額が大きい場合、この利子だけで数十万円の財産になることもあるため、必ず金融機関に**「既経過利息計算書」**付きの残高証明書を発行してもらいましょう。
定期預金は、解約して直ぐ現金に変えることは可能ですが、契約を「継続する」ということも可能です。
金利の高い時期に契約した定期預金であれば、利息が膨らんで金額が大きくなることもあるため、どちらにするか決定する必要があります。利息分の確認は、別途利息計算書を依頼する必要があります。
「継続する」場合には、引き継がれる方が該当の金融機関で名義変更をおこなう必要があります。
外貨預金
- 評価額 = 外貨残高 × 亡くなった日の為替レート(TTB)
- TTB(対顧客電信買相場)とは、外貨を日本円に換える時のレートです。金融機関によってレートが異なるため、預け入れ先の金融機関のレートを確認します。
4. 「バレない」は誤解!税務署の調査能力(KSKシステム)
「タンス預金ならバレないだろう」「通帳を隠せば大丈夫」
そう考えるのは非常に危険です。
国税庁は**「KSK(国税総合管理)システム」**という巨大なデータベースを持っています。
ここには、国民の過去の所得税申告データや、不動産の登記情報などが蓄積されています。
- 「この人は年収が高いから、もっと貯金があるはずだ」
- 「不動産を売った利益がどこにも入金されていない」
AIのような分析で、収支のバランスがおかしい家庭はすぐにピックアップされます。さらに、税務署は職権で過去10年分の銀行口座の動きを調査できます。
不自然な出金や隠し財産は、税務調査で必ず発覚します。正直に、正確に申告することが、結果として一番の節税(ペナルティ回避)になります。
5. 『簡単相続ナビ』で資金不足と計算ミスを防ぐ
「定期預金の利子計算なんて難しそう」
「納税資金が足りるか不安…」
そんな方は、ミラーマスター合同会社が運営する**『簡単相続ナビ』**をご活用ください。
『簡単相続ナビ』のメリット
- 資金ショートの警告: 預貯金などの流動資産と、予想される相続税額を比較し、現金が足りているかを瞬時に判定します。
- 複雑な評価もカバー: 忘れがちな定期預金の利子や、外貨預金の評価入力にも対応しており、計算漏れを防ぎます。
- 財産目録の自動作成: 入力したデータはそのまま「財産目録」として出力でき、税理士への相談や遺産分割協議にそのまま使えます。
正確な現状把握こそが、安心できる相続の第一歩です。まずはシミュレーションで、ご自宅の「資金バランス」をチェックしてみましょう。
まとめ
- スピード: 現金・預貯金はすぐに調査し、納税資金が足りるか確認する。
- 調査: 通帳の履歴から、株式や保険などの「隠れ資産」を見つけ出す。
- 評価: 定期預金は「残高+利子(既経過利息)」で計算するのを忘れない。
- リスク: 隠し財産はKSKシステムと銀行調査で必ずバレる。
- ツール: 『簡単相続ナビ』を使えば、資金不足のチェックと正確な財産目録作成が簡単にできる。
正しい調査と評価で、後悔のない相続手続きを進めましょう。


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