資産価値最大化とリスク回避のためのゴルフ会員権相続・評価・売却に関する包括的戦略レポート

現代の日本において、ゴルフ会員権の相続は極めて特殊かつ複雑な様相を呈している。かつて「資産の王様」とも呼ばれ、投機対象としてバブル経済を象徴したゴルフ会員権は、現在、所有者の高齢化と市場構造の変化により、「負動産」化するリスクと、依然として高額な価値を持つケースが混在する、非常に判断の難しい相続財産となっている。


目次

序章:現代日本におけるゴルフ会員権相続の現状と課題

ゴルフは、昭和から平成にかけての日本のビジネス文化、社交、そしてライフスタイルを象徴するスポーツとして、長きにわたり確固たる地位を築いてきた。高度経済成長期からバブル経済期にかけて、ゴルフ会員権は単なるスポーツ施設の利用権を超え、社会的ステータスの象徴であり、同時に値上がり益を期待できる有力な投資商品として機能していた。多くの資産家や企業経営者が、数千万円、時には億単位の資金を投じて会員権を購入した背景には、こうした「資産」としての側面が強く影響している。

しかし、バブル崩壊後の長期的なデフレ経済、ゴルフ人口の減少、そして所有者の高齢化に伴い、ゴルフ会員権を取り巻く環境は激変した。かつて高額で取引された会員権の多くが、現在ではその市場価値を大きく減じている。その一方で、依然として名門コースの会員権は高値を維持しており、相続財産としての評価額は決して無視できない規模となるケースも多い。

相続が発生した際、遺族にとってゴルフ会員権は最も厄介な遺産の一つとなり得る。なぜなら、現金や上場株式のように市場価格が一義的に決まるものではなく、不動産のように登記制度が完備されているわけでもないからである。それは「優先的施設利用権」という無体財産権と、「預託金返還請求権」という金銭債権、さらには「株主権」という社員権が複雑に絡み合ったハイブリッドな資産であり、その取り扱いを誤れば、予期せぬ税務リスクや、親族間のトラブル、さらには処分できないまま年会費だけを支払い続ける「負動産」化のリスクを招くことになる。

本稿では、ゴルフ会員権の相続に直面した遺族、あるいは将来の相続に備えたい所有者に向けて、その法的性質の理解から、国税庁の通達に基づく正確かつ有利な相続税評価の方法、煩雑極まる名義変更や売却の実務手続き、そして最終的な出口戦略としての退会や償還請求までを、最新の法制度と実務慣行に基づいて網羅的に解説する。また、判断に迷う局面において、『簡単相続ナビ』がいかにして専門家との架け橋となり、スムーズな解決をサポートできるかについても詳述する。


第1章 ゴルフ会員権の法的構造と相続における重要性

相続手続きを適正に進めるための第一歩は、被相続人が保有していたゴルフ会員権が、法的にどのような性質を持つ「契約」に基づいているのかを正確に把握することである。ゴルフ会員権と一口に言っても、その権利形態は様々であり、この分類を誤ると、評価額の算定や売却の可否において致命的なミスを犯すことになりかねない。

1.1 ゴルフ会員権の3つの類型とその特徴

ゴルフ会員権は、その法的構成により主に以下の3種類に大別される。相続が発生した場合、まずはお手元の証券や会則を確認し、どのタイプに該当するかを特定することが必須となる1

1.1.1 預託金制(預託金会員権)

日本のゴルフ会員権の約90%を占める、最も一般的かつ主流の形態である。この仕組みは、ゴルフ場の建設・開発資金を調達するために考案された日本独自のシステムと言える。

  • 概要: 会員はゴルフ場経営会社に対して一定の金額(預託金)を無利息で預け入れる。その対価として、優先的に施設を利用できる権利(優先的施設利用権)を得る。
  • 相続時の特徴: 法的には「施設利用権」という債権的な権利と、「預託金返還請求権」という金銭債権のセットで構成されている。契約上、一定期間(据置期間、通常は10年〜20年)が経過した後には、会員は退会と引き換えに預託金の返還を請求できる権利を持つ。
  • リスク要因: 相続において最も問題となるのが、この「預託金」の取り扱いである。ゴルフ場の経営状態によっては、会則の変更や理事会の決議により、預託金の返還が停止・延長されているケース(償還期限の延長)が多発している。市場での売買が可能であれば市場価格で評価されるが、市場性がない場合は、この「返還されないかもしれない預託金」をどう評価するかが最大の論点となる。

1.1.2 株主会員制

会員がゴルフ場経営会社の株主となり、株主としての権利とプレー権を併せ持つ形態である。戦前から続く歴史ある名門コースや、会員主体の運営を行っているクラブに多く見られる。

  • 概要: 会員権は「株式」そのものであり、会員は株主総会での議決権を持つ。多くの場合は、株式の所有に加えて、施設利用権としての預託金を別途支払う複合的な形態をとっている。
  • 相続時の特徴: 株式としての側面を持つため、相続手続きには会社法上の株主管理プロセスが必要となる。また、ゴルフ場が解散する際には、会社の残余財産分配請求権を持つため、資産価値の裏付けとしては比較的堅固であると言える。評価は通常、市場取引価格に基づいて行われるが、取引相場がない場合は非上場株式としての複雑な評価が必要となる。

1.1.3 社団法人制

「公益社団法人」や「一般社団法人」が経営主体となり、会員はその法人の「社員」となる形態である。利益追求を第一義としないため、極めて排他的かつ格式高いクラブ(「○○カンツリー倶楽部」など)に多い。

  • 概要: 会員権は社員としての地位を表すものであり、営利企業の株式とは性質が異なる。
  • 相続時の特徴: この形態の最大の特徴かつ注意点は、定款により**「会員権の譲渡ができない」、あるいは「相続による承継を認めていない(一代限り)」**と定められているケースが存在することである。
    • 相続不可の場合: 被相続人の死亡と同時に会員資格(権利)が消滅するため、相続財産として計上する必要はない。ただし、直ちに権利が消滅する代わりに、遺族への弔慰金や、払い込んだ拠出金の一部払い戻し規定などが存在するかどうかを、定款や事務局への問い合わせで確認する必要がある。ここを見落とすと、受け取れるはずの金銭を逸失する可能性がある。

1.2 バブル経済の遺産としての側面と「認識ギャップ」

相続実務において頻繁に発生するのが、被相続人の「認識」と、現在の「実勢価格」との間に横たわる巨大なギャップである。

特に注意を要するのは、1980年代後半のバブル期に購入された会員権である。当時、数千万円から億単位で購入された会員権が、現在では数十万円、あるいは「ゼロ円」に近い価値しか持たない、場合によっては買い手がつかないというケースが散見される。

しかし、被相続人の記憶や、残されたメモ、あるいは古い遺言書には「購入時の高額な価格」が強く刻まれていることが多い。これにより、遺産分割協議において、ゴルフに詳しくない相続人が「父は数千万円の会員権を持っていたはずだ」と主張し、他の相続財産(現金など)とのバランスを巡って争いの種になることがある。これを防ぐためには、相続開始直後の段階で、客観的な時価評価を行い、現実を直視した遺産分割協議書を作成することが、円満な相続の鍵となる。


第2章 ゴルフ会員権の相続税評価:70%ルールの徹底解剖と計算ロジック

相続税の申告において、ゴルフ会員権をいくらで評価すべきかは、国税庁の「財産評価基本通達」によって厳密に定められている。最も基本となるのが「取引相場の70%」というルールであるが、これには例外や計算上の注意点が多数存在し、単純な掛け算では済まない場合が多い。

2.1 原則的評価方法:取引相場がある会員権

市場で日常的に売買されているゴルフ会員権の場合、相続税評価額は以下の計算式で算出される。これが最もスタンダードな評価方法である。

相続税評価額 = [課税時期(被相続人の死亡日)の通常の取引価格] x 70%

【なぜ70%なのか?】

現金預金であれば額面通り100%で評価されるのに対し、なぜゴルフ会員権は70%で良いのだろうか。これは、ゴルフ会員権の「換金性(流動性)」の低さを考慮したものである。ゴルフ会員権を市場で換金しようとした場合、直ちに現金化することは難しく、買い手を見つけるまでのタイムラグがある。また、売却時には名義書換料や業者への仲介手数料など、多額のコストが発生する。国税庁はこれらを考慮し、資産価値を実勢価格から30%割り引いて評価することを認めている。

【計算例】

  • 課税時期の取引相場:200万円
  • 評価額:$2,000,000 x 0.7 = 1,400,000円

この140万円が、相続税の課税対象額として遺産総額に加算される。

2.2 「通常の取引価格」の決定プロセスとデータの取得

ここで実務上、最大の問題となるのが、「通常の取引価格」をどこから入手するかである。上場株式のように新聞や証券取引所のサイトに毎日終値が掲載されているわけではない。ゴルフ会員権の価格は「相場」であり、業者によって提示価格が異なる相対取引の世界である。

  1. 複数の会員権業者データの参照:ゴルフ会員権の取引価格は業者によって微妙に異なる。買い手が多い業者とそうでない業者では価格差が生じる。そのため、国税庁の通達では、取引価格が複数ある場合、複数の主要な会員権取引業者から取引価格を取り寄せ、その平均値など合理的な数値を採用することが一般的となっている。
    • インサイト: これは納税者にとって有利に働く可能性がある。一社だけの高い見積もりを採用するのではなく、複数の業者から見積もりを取り、その平均値や中値を採用することで、評価額の過大計上を防ぐことができる。
  2. 「売り希望」と「買い希望」の中値:成約事例が少ない場合、気配値(売り希望価格と買い希望価格)の中値を採用することも実務上行われている。

【重要確認事項:預託金が含まれているか】

取引相場に含まれているのが「プレー権」だけの価値なのか、それとも「預託金の返還請求権」も含まれているのかを確認する必要がある。一般的に、取引されている価格には預託金の権利も含まれているため、別途預託金を評価して加算する必要はない。しかし、取引慣行によっては別個に扱われるケースもあるため、1にある通り、取引相場の内訳を確認することが不可欠である。

2.3 取引相場がない会員権の評価手法

地方のゴルフ場や、経営再建中のゴルフ場など、市場での取引が行われていない(相場が形成されていない)会員権の場合、評価方法はさらに複雑になり、専門的な計算が必要となる。

2.3.1 株主会員制の場合(取引相場なし)

非上場株式の評価方法に準じて評価を行う。具体的には、「純資産価額方式」や「類似業種比準方式」といった、企業の財務内容に基づいた計算を行う。これは極めて高度な税務知識を要するため、税理士の関与が必須となる領域である。

2.3.2 預託金制の場合(取引相場なし)

市場性がないため、「直ちに預託金の返還を受けられるかどうか」が評価の基準となる。

  • 直ちに返還を受けられる場合:ゴルフ場に申し出ればすぐに預託金が返ってくる状態であれば、預託金の額面金額そのものが評価額となる。
  • 一定期間経過後に返還される場合:「あと5年待てば返還される」といった場合、現在の手元資金よりも価値は低くなる。そのため、預託金の額面金額を、返還までの期間(課税時期から返還予定日までの期間)に応じた「基準年利率」で割り引いた**現在価値(複利現価)**で評価する。
    評価額 = 預託金額 x 複利現価率(期間・利率に応じた係数)
    • 例: 預託金1000万円、返還まであと5年、基準年利率が低い現状では割引率は小さいかもしれないが、長期間の据え置きがある場合は評価額を大幅に圧縮できる可能性がある。

2.3.3 プレー権のみの会員権(取引相場なし)

預託金がなく、単にプレーができるだけの権利(利用権)で、かつ市場取引もできない場合、財産的価値はないとみなされ、評価額はゼロとなる場合がある。

2.4 特殊事例:倒産・経営破綻したゴルフ場の「ゼロ評価」

ゴルフ場運営会社が民事再生法や会社更生法の適用を申請している場合、あるいは破産している場合の評価はどうなるか。

  • 完全な破綻(プレー不可・返還なし):ゴルフ場が閉鎖され、資産価値が完全に失われており、かつ預託金の返還も見込めない場合、評価額は「0円」となる。これは相続税がかからないことを意味する。
  • 再生手続き中(プレー可能・一部返還の可能性):再生計画に基づき、預託金の一部(例:90%カットで残り10%を返還など)が弁済されることになったり、新会社(スポンサー企業)へ権利が移行したりする場合がある。
    • この場合、「将来返還される予定の金額」や「更生計画案に基づく評価」が必要となる。
    • 実際の市場取引価格が存在する場合は、原則通りその70%で評価する。
    • 取引停止中の場合は、「現在価値」を算定することになるが、不確実性が高いため、個別の判断が必要となる。
    • 注意点: 3にあるように、もし後日、予期せず預託金が返還されることになった場合には、相続税の修正申告が必要になるケースがある。逆に、評価額を計上して申告した後に回収不能となった場合、「更正の請求」を行い税金を取り戻せるかというと、要件が厳しいため、当初の申告時点での「見極め」が極めて重要である。

第3章 相続手続きの具体的フロー:名義書換か、売却か、それとも…

相続税の評価と並行して進めなければならないのが、権利の承継手続きである。ゴルフ会員権は放置していても誰かが自動的に引き継いでくれるものではない。ここでは「名義変更(承継して利用する)」、「売却・処分(換金する)」、そして「償還・放棄」の3つのルートに分けて、具体的なアクションプランを解説する4

3.1 前提:遺産分割協議と「誰が引き継ぐか」の決定

ゴルフ会員権は、不動産のように「共有持分」として登記することが実務上難しい資産である。一つの会員権を複数の相続人で共有しても、ゴルフ場側は「会員は一名」としか認識しないことが大半であり、年会費の請求先も一名に定める必要がある。

したがって、遺産分割協議において、誰がその会員権を単独で承継するかを明確に決定しなければならない。これは後述する売却手続きにおいても、誰が売主となるかを確定させるために不可欠なプロセスである。

3.2 パターンA:名義変更して利用する場合

相続人の誰かがゴルフ愛好家であり、故人の会員権を引き継いでメンバーとしてプレーしたい場合のプロセスである。

  1. 入会資格と条件の確認:多くの名門コースでは、会員になるために厳格な審査がある(年齢制限、国籍要件、他会員の推薦、ハンディキャップ要件など)。「相続人だから」という理由だけで無条件に入会できるとは限らない。まずはゴルフ場へ連絡し、「相続による入会条件」を確認する。
  2. 必要書類の提出:一般的に以下の書類が求められる。書類に不備があると手続きがストップするため、入念な準備が必要だ。
    • 遺産分割協議書: 該当会員権を特定の相続人が取得することが明記されたもの。
    • 相続人全員の印鑑証明書: 遺産分割協議書に押印された実印が本物であることを証明するため。これは日本の相続実務において最も信頼性の高い本人確認手段であり、ゴルフ場側も後の紛争(「私は同意していない」といった主張)を防ぐために必須としている。
    • 除籍謄本・戸籍謄本: 被相続人の死亡の事実と、相続人全員の範囲・関係を証明するため。
    • 会員証書(証券): にある通り、証券の裏面には被相続人の署名等が記載されていることが多い。紛失している場合は、再発行手続き(保証金の差し入れや理事の保証等)が必要となる。
    • 名義書換申請書: ゴルフ場所定の書式。
  3. 名義書換料の支払い:入会が承認された場合、名義書換料を支払う。相続の場合、第三者譲渡による通常の名義書換料(数十万円〜数百万円)よりも減額される「相続優待料金」や「名義書換料減額キャンペーン」が適用される場合があるため、必ず確認したい。
  4. 審査・承認:理事会等での承認を経て、晴れて新会員となる。

【重要:名義書換料の税務処理】

3で言及されている通り、相続人が支払った名義書換料は、相続税の計算上、債務控除(遺産総額からマイナスすること)の対象にはならない。これは、名義書換料が「被相続人が生前に負っていた債務」ではなく、「相続人が自身の地位を確立するために支払う固有の費用」とみなされるからである。

ただし、将来この会員権を売却する際には、支払った名義書換料を**「取得費(経費)」**として譲渡所得から控除することができる。したがって、名義書換料の領収書は、会員権を持っている限り永久保存が必要である。

3.3 パターンB:売却して現金化する場合

相続人がゴルフをしない、あるいは換金して納税資金に充てたい場合のプロセスである。ここで重要なのは、「いつ」「誰の名義で」売るかという戦略である。

  1. 市場性の確認と業者選定:まず、その会員権が売れるものかどうかを確認する。専門の会員権取引業者に査定を依頼する。この際、『簡単相続ナビ』のようなプラットフォームを通じて、実績のある信頼できる業者を紹介してもらうことが安全である。
  2. 「中間省略」の可否確認(重要ポイント):ここが手取り額を左右する最大のポイントである5。
    • 直接売却可能(名義変更不要): 一部のゴルフ場では、被相続人名義のまま、相続に必要な書類(遺産分割協議書等)を添付することで、第三者への直接譲渡を認めている。これを不動産登記等の用語を借りて「中間省略」的な手続きと呼ぶことがある。この場合、相続人は名義書換料を支払う必要がないため、売却代金がそのまま利益となり、経済的メリットが大きい。
    • 名義変更必須: ゴルフ場によっては、一旦、相続人名義に変更(名義書換料を支払い、入会審査を受ける)してからでないと、第三者への売却を認めないケースがある。この場合、売却益よりも名義書換料の方が高くつき、「売れば売るほど赤字(持ち出し)」になるリスクがある。例えば、売却価格が20万円なのに、名義書換料が50万円かかる場合、30万円の赤字となる。このような場合は、売却ではなく後述する「退会」や「放棄」を検討する必要がある。
  3. 売却契約と決済:買い手が見つかれば、売買契約を締結し、代金を受け取る。
  4. 会員権の引き渡し:証券を買い手に引き渡す。この際も、相続人全員の印鑑証明書等が必要になるケースがある2。

3.4 パターンC:退会・預託金返還請求(償還)

市場価値がなく売却できないが、預託金が設定されている場合、ゴルフ場に対して「退会」を申し出ると同時に「預託金の返還」を請求する方法がある。これを「償還(しょうかん)」と呼ぶ。

  • 理想的なシナリオ: 額面通りの預託金が返還される。
  • 現実的なシナリオ: 多くのゴルフ場では、資金繰りの悪化により、会則を変更して「据置期間の延長(例:10年延長)」を行ったり、「抽選償還(毎年少額ずつ抽選で返す)」といった制限を設けていたりする。事実上、返還に応じないケースも多い。
  • 法的手段の検討: 5にあるように、預託金の返還を求めて訴訟を起こすことも可能である。しかし、弁護士費用(着手金・成功報酬)と回収できる金額(訴額)を天秤にかける必要がある。ゴルフ場側に支払い能力がなければ、勝訴しても回収できない「絵に描いた餅」になるリスクがある。

第4章 税務の落とし穴:所得税と相続税のダブルパンチ

ゴルフ会員権を相続して売却した場合、相続税だけでなく、その後の売却益に対して「譲渡所得税(所得税・住民税)」が発生する可能性がある。この複雑な税制を理解し、適切な節税対策を講じることが重要である。

4.1 譲渡所得の計算式と「取得費」の引き継ぎ

ゴルフ会員権を売却して利益が出た場合、その利益は「総合譲渡所得」として、給与所得など他の所得と合算して課税される。

【計算式】

譲渡所得 = 売却価格 – (取得費 + 譲渡費用) – 特別控除(最大50万円)

  • 取得費: ここで重要なのは、相続により取得した資産の取得費は、「被相続人が購入した時の価格」を引き継げるという点である。
    • 重要インサイト: バブル期に1000万円で購入した会員権を相続し、現在の相場である50万円で売却した場合、取得費は1000万円として計算できる。
    • 50{万円} – (1000{万円} + 手数料) = 大幅な赤字
    • この場合、譲渡所得はマイナス(損失)となり、税金は発生しない。バブル期購入の会員権を売却する場合、ほとんどのケースで譲渡所得税は発生しないと言える。
  • 譲渡費用: 売却時の仲介手数料など。

4.2 損益通算の廃止(最も注意すべき税制改正)

かつては、ゴルフ会員権の売却損(赤字)を、給与所得などの他の所得と相殺(損益通算)して、全体の税金を安くすることができた。多くのサラリーマン投資家がこの「節税スキーム」を利用した。

しかし、平成26年4月以降の売却については、税制改正によりゴルフ会員権の譲渡損失は他の所得との損益通算ができなくなっている。

つまり、「バブル期に1000万円で買った会員権を10万円で売って、990万円の赤字を出し、給与所得から990万円を引いて税金を取り戻す」という手法は現在使えない。この点を誤解していると、資金計画に大きな狂いが生じるため注意が必要である。損失はあくまで「ゴルフ会員権の譲渡益」の範囲内でしか相殺できない。

4.3 「取得費加算の特例」による節税

逆に、売却益が出る(安く買った会員権が高く売れた、あるいは取得費が不明で概算取得費5%を使う場合など)ケースでは、**「取得費加算の特例」**を活用すべきである。

これは、相続したゴルフ会員権を、相続税の申告期限から3年以内に売却した場合、支払った相続税の一部を「取得費」に加算(上乗せ)できる制度である。

これにより、譲渡所得(利益)を圧縮し、所得税を減らすことが可能である。売却のタイミングを計る上で、この「3年以内」という期限は非常に重要なマイルストーンとなる。

売却タイミング税務上のメリット注意点
相続税申告期限から3年以内取得費加算の特例が使える。譲渡所得税を節約できる可能性が高い。特例を受けるためには確定申告が必要。
3年経過後特例が使えないため、通常の譲渡所得計算となる。売却益が出る場合、税負担が増える可能性がある。

第5章 実践的トラブルシューティングと特殊事例

5.1 会員証券が見当たらない場合

被相続人が会員であったことは確実(年会費の請求書が来ている等)だが、肝心の証券(紙の証書)が見つからないケースは非常に多い。

  • 対応: 直ちにゴルフ場に連絡し、紛失の旨を伝える。通常、一定期間の「公告」手続き(会報誌への掲載など)や、保証人の設定、あるいは「念書(もし証券が出てきても無効とする旨)」の提出を経て再発行が可能である。ただし、再発行手数料(数万円程度)がかかる場合がある。

5.2 年会費の未納がある場合

被相続人が生前、病気などでプレーしておらず、年会費を長期間滞納している場合がある。相続人はその滞納分を支払う義務があるのか?

  • 法的見解: 相続放棄をしない限り、被相続人の「債務」もすべて相続するため、滞納年会費の支払い義務は相続人に承継される。
  • 実務対応: 売却代金から未納分を差し引いて清算する(未納分を買い手が負担する形にするが、その分売値は下がる)交渉を、ゴルフ場や業者と行うのが一般的である。もし売却価格よりも滞納額の方が大きければ、相続財産からの持ち出しとなる。

5.3 ゴルフ場と連絡が取れない・倒産している

ゴルフ場に電話しても繋がらない、あるいは倒産している場合。

  • 対応: 運営会社が変わっている可能性があるため、インターネットで現在の運営状況を調査する。「ゴルフ場名 + 現在」「経営会社」などで検索する。また、『簡単相続ナビ』のような専門サービスを通じて、現在の権利関係を調査依頼することが効率的である。3にある通り、経営破綻していても新スポンサーのもとで営業している場合、一定の手続きを経れば権利が復活することもある。

5.4 非嫡出子(婚外子)の相続分について

5において言及されているが、かつては嫡出子と非嫡出子で相続分に差があったが、平成25年の最高裁判決および民法改正により、現在は同等の相続分となっている。

ゴルフ会員権を遺産分割する場合、相続人全員の合意が必要であるため、被相続人に認知した子が別にいる場合、その子も含めた遺産分割協議を行わないと、名義変更も売却もできない。戸籍調査によって予期せぬ相続人が判明し、手続きが難航するケースはゴルフ会員権に限らず相続の現場では珍しくない。


第6章 結論:なぜ専門家のサポートが必要なのか

ここまで解説してきた通り、ゴルフ会員権の相続は、「評価の専門性(税理士領域)」、「権利移転の法務(司法書士・行政書士領域)」、「売却・換金の実務(会員権業者領域)」、そして「交渉・訴訟(弁護士領域)」が複雑に絡み合う、極めて難易度の高いクロスオーバー領域である。

  1. 適正評価による節税: 複数の業者からデータを集め、市場価格を精査することで、あるいは取引相場がない場合の特殊な計算を行うことで、過大な相続税の支払いを防ぐことができる。これは一般の方には困難な作業である。
  2. 「損切り」の判断: 名義書換料と売却価格のバランスを見極め、時には「売らない(放棄する、退会する)」という勇気ある決断をサポートできるのは、経験豊富な専門家だけである。
  3. トラブル回避: 預託金返還や滞納会費の処理、予期せぬ相続人の出現など、ゴルフ場側や親族間でのタフな交渉を、法的な裏付けを持って進めることができる。

『簡単相続ナビ』で最適な解決策を

ミラーマスター合同会社が運営する『簡単相続ナビ』では、ゴルフ会員権の相続実務に精通した税理士、司法書士、そして信頼できる会員権取引業者との強固なネットワークを有している。

「うちの会員権はいくらになるのか? そもそも価値はあるのか?」

「売るべきか、持ち続けるべきか、それとも放棄すべきか?」

「手続きが面倒で手がつかない」

そのような悩みをお持ちの方は、自己判断で処理を進めて損失を被る前に、ぜひ一度『簡単相続ナビ』の無料相談をご利用いただきたい。プロフェッショナルが、あなたの状況に合わせた最適な相続プランを提示し、大切な資産を適正に評価・処分し、あるいは想いと共に次世代へ繋ぐ手助けをする。ゴルフ会員権という「バブルの遺産」を、次世代への「負担」ではなく「資産」として決着させるために、私たちが伴走する。

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この記事を書いた人

ミラーマスター合同会社代表社員の鏡 孝正です。
私たちは、専門家任せになりがちな「相続」を、皆様がご自身の手でコントロールできるべきだと考えてます。
弊社のシステムコンサル技術を結集した『簡単相続ナビ』
で、ご家族の「安心の相続」をサポートします。
詳細は、https://mirror-master.com/about/founder-profile/をご参照下さい。

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