相続税の申告において、最も重要で、かつ最も間違いが起きやすいのが**「資産価値(評価額)」の計算**です。
「預金通帳の残高を見ればいいのでは?」と思うかもしれませんが、それは現金だけの話。不動産や株式、投資信託などは、相続税独自のルール(財産評価基本通達)に基づいて計算し直す必要があります。
この計算を間違えると、**本来払う必要のない税金を払う「過大申告」になったり、逆に税務署から申告漏れを指摘され「ペナルティ(追徴課税)」**を受けたりするリスクがあります。
不動産の場合は、土地や建物の相続税評価額が基準となります。株式の場合は、時価や公示価格を基に算出されます。
その他の財産についても、それぞれの取引価格や評価額を考慮する必要があります。
資産価値の調べ方には、不動産は不動産鑑定士による評価や土地評価額の公示価格を参考にする方法があります。株式や債権については、相続発生時点の相場価格を把握する必要があります。また、現金や預金については残高証明書を取得し、正確な金額を把握することが大切です。
この記事では、主要な財産の評価ルールと、なぜ手計算が危険なのかを解説します。
相続税計算における資産価値とは?相続財産の評価の原則
相続税は相続財産の価値に対して課税されますので、相続税を計算するためには、相続財産を評価してその価値を知る必要があります。つまり、相続税評価額とは、相続税を計算するために財産を評価した金額のことです。
資産価値計算について知ることは、相続手続きにおいて非常に重要な要素です。相続税は相続人が相続した財産に課税されるため、正確な資産価値の計算が必要です。資産価値の計算は不動産や預貯金、株式などの財産、知的財産権や事業価値などを対象にしますが、それぞれの評価方法が異なります。
相続財産の評価は、原則、財産の相続発生時における時価により行われます。時価とは、公正な評価額であり、「取引を実行するために必要な知識をもつ自発的な独立第三者の当事者が取引を行うと想定した場合の取引価額」をいいます。これは、相続時点(被相続人が死亡した日)での資産がそれぞれの市場で取引される価値(一般的なものであれば『定価』と言われている金額)を指します。
とはいえ、すべての財産について、個々に時価を算定することは、現実には極めて困難です。例えば、不動産など個別性の高い財産の場合は実際に売ってみない事には売れる値段はわかりません。
そこで、相続税における財産評価は、通常、国税庁から提示されている「財産評価基本通達」によりおこなわれることになっています。(財産評価基本通達とは、財産の評価額の計算方法を示したマニュアルのようなものです。)
ポイント: 我々が普段目にする「市場価格(売買価格)」と「相続税評価額」はイコールではありません。多くの場合、相続税評価額の方が低くなる傾向にありますが、計算手順は非常に複雑です。
不動産の価値は土地や建物の評価額に基づいて算定されます。不動産の価値評価には地価や建物の価値、築年数、立地条件などが考慮されるため、専門家による鑑定を行うのが一般的です。
また、預貯金や株式などの金融資産については、相続時の相場価値を基に評価されます。
株式の場合は相続日時点での株価や時価の評価が行われ、預貯金については残高や金利、相続日からの期間などが考慮されます。
なお、借入金など財産の価額から控除すべき債務の価額は、通常金銭による表示がされているために、評価上の問題が生じることはありません。
相続税の資産価値計算は複雑であり、専門家の助言を受けることが重要です。資産価値の正確な算定は、相続税の節税対策にも繋がります。相続税の資産価値を正確に把握することで、円滑な相続手続きを行うことが可能となります。
具体的な相続財産の評価
資産評価をする準備として、資産内容を纏めた「財産目録」を作成します。財産目録には、財産の種類、細目(財産を特定できる様に詳しく)、数量、評価額、備考などを記載します。
財産目録の具体的な作成方法は以下の記事を参照して下さい。

財産目録を作成したら、今度は、相続税を計算するために、その財産の総額を求める必要があります。財産の総額を求める為には、各財産の評価額を決定しなければなりません。
現金や預貯金は簡単に評価額を求めることができます。また、有価証券は少し複雑になりますが、それぞれ取引先が確定しているため、多くの場合にはそれぞれの取引先に亡くなったことを伝えると、評価額を教えて貰うことが可能です。
但し、変動の激しいFX取引や株式証券などは少し事情が異なってきます。また、市場に公開されていない非上場株式については評価方法が更に複雑です。
FX取引は、取引中の場合には被相続人が死亡した日の最終価格で評価します。被相続人が死亡した日の最終価格で評価するのは、スワップポイントや証拠金(預り金)も同じです。
被相続人が死亡した日の最終価格で評価するということは、死亡した日の最終価格から実際に決済するまでの間でタイムラグがあるため、利益が発生したり、損失が発生することになります。
FX取引はレバレッジを掛けて取引するのが普通なので、その利益や損失が数倍にもなってしまうのです。
損失が出た場合には、FXの損失も相続財産とみなされるため、相続人が損失分の支払いをする必要があります。
また、不動産については、様々な評価方法が存在しており、評価する人の技量により評価額が大きく変わってきます。不動産は、元の金額が大きいので評価額が数百万円、数千万円違ってくるという事は頻繁に発生しています。
土地の評価は、色々な評価方法をシミュレーションして評価しないと大損してしまうのです。
この様に、資産の評価は非常に複雑で奥が深いものなのです。
『簡単相続ナビ』では、これらの複雑な評価方法が組み込まれているため、色々な評価方法をシミュレーションすることが可能となっています。
財産の種類ごとの評価方法
相続財産には、様々な種類の財産があります。このため、各財産別に評価額を算定する必要があります。
以下に、代表的な財産の種類と相続税評価の方法を簡単に纏めたので参考にして下さい。
但し、実際に計算してみると解りますが、資産の評価方法は以下に記載しているよりも非常に複雑です。
| 財産の種類 | 評価方法 |
|---|---|
| 現預金 | 残高+解約による相続発生日までの既経過利子の額(源泉徴収税額控除後) |
| 土地 | ①市街地を中心とした路線価地域:路線価方式(路線価×地積) ②①の路線価地域以外:倍率方式(固定資産税評価額×倍率) |
| 借地権 | 自用地評価額×借地権割合 |
| 貸家建付地 | 自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合) |
| 貸宅地 | 自用地評価額×(1-借地権割合) |
| 家屋 | 固定資産税評価額 |
| 貸家 | 固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合) |
| 上場株式 | 次のいずれか低い金額 ①相続発生日の終値 ②相続発生月、前月、前々月の終値の平均値のいずれか低い金額 |
| 自社株式 | 会社の規模等に応じて次の中から選択 ①類似業種批準価額方式 ②純資産価額方式 ③①と②の併用方式 |
| ゴルフ会員権 | 取引相場×70% (相場のない場合、返還を受けられる金額等の一定の金額) |
| 利付公社債 | 発行価額+相続発生までの既経過利息(源泉徴収税額控除後) ※上場している場合は、相続開始日の最終価格 |
| 生命保険契約に関する権利 | 解約返戻金の額 |
| 書画・骨とう | 売買実例、鑑定等による価額 |
その他の資産の評価方法
その他の資産には、生命保険や年金、事業の評価などがあります。
生命保険の評価額は基本的には保険会社の担当者によって算出されますが、保険契約の内容や保険料の支払い状況などが評価に影響を与えます。
年金の場合は、現在価値の評価や受給期間、受給者の年齢などが考慮されます。
事業の評価では、事業規模や業績、資産や負債の状況、将来の見通しなどが評価の要素となります。
また、債権については、特約の有無や発行時の金利などを考慮して引き渡し価額を算出する必要があります。預金については、残高証明書を取得することで相続時点での正確な金額を把握できます。さらに、貴金属や絵画などの貴重品は、鑑定士による鑑定価値を基に評価します。
その他の資産についても、専門家や行政機関のガイドラインに沿って適切な評価方法を選定し、資産評価に臨むことが可能です。
これらの資産は相続時に大きな影響を与えるため、正確な評価が求められます。相続税対策を含め、これらの資産の評価方法については専門家の意見を十分に聞くことが重要です。
相続税評価額を計算するときの注意点
相続税評価額を計算する際には、いくつかの注意点があります。
まず、不動産などの資産は適切に評価する必要があります。不動産の場合、査定額を適切に算定するためには、不動産鑑定士による査定を行うことが重要です。
また、相続税評価額を計算する際には、相続時の状況や現金化の可否などを考慮する必要があります。さらに、株式や債券などの金融商品についても、その時点の相場価格を踏まえた適切な評価が求められます。
評価額を適切に算出するためには、専門家の助言を仰ぐことが重要です。また、相続税評価額を算出する際には、現金や預金などの金銭的な資産も正確に把握する必要があります。
残高証明書などを用いて、正確な金額を把握するよう努めましょう。相続税評価額を計算する際には、これらの注意点に留意した上で、専門家と相談しながら慎重に取り組むことが肝要です。
見落としがちなポイント
相続税の評価額を算定する際、見落とされがちなポイントの1つは、土地の付帯設備や増改築などの付加価値です。
土地の価値だけでなく、建物や付属設備の価値も含めて適切に評価することが重要です。また、美術品や貴金属などのコレクションアイテムも評価額の見落としがちな要素です。これらのアイテムの価値を正確に把握するためには、専門家の見解を仰ぐことが有益です。
さらに、贈与の際に適用される贈与税の価値は見逃されがちなポイントの1つです。贈与税評価額は相続税評価額とは異なるため、適切に把握しておく必要があります。
また、墓地や墓石などの墓地関連費用も評価額の見落としがちな項目です。相続財産に含まれる場合は、その価値を的確に評価することが肝要です。
評価額の見落としがちなポイントに留意しながら、相続財産の評価額を正確に算定することが重要です。
まとめ
資産の正確な評価は、相続税申告の際に必要不可欠です。不動産や株式、現金などの資産はそれぞれ異なる調査方法がありますが、専門家の助言を仰ぎながら慎重に計算することが大切です。
計算において誤りがあると、不当な課税を避けたり、相続税の節税対策を行ったりする機会を逃すことにつながりかねません。資産価値の正確な計算と専門家のサポートをうまく活用し、将来の相続に備えましょう。
資産価値を正確に把握することで、相続税の節税対策を講じることも可能です。説明してきた様に、相続財産の評価額の求め方は、様々で、非常に大変な作業となります。
相続財産の調査を後回しにしてしまうと、後々のスケジュールが非常にキツイものとなってしまうので、できるだけ早いうちに整理に取り掛かって下さい。特に、故人に借金があった場合には要注意です。
財産の中に負の遺産があると、その借金も相続しなければならなくなってしまうからです。負債の額が大きい場合には、「相続放棄」も検討する必要があります。「相続放棄」する場合には、3カ月以内に家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。
3カ月を過ぎてしまうと、相続する事を了解したこととなってしまい、後から申告しても受け付けて貰えないので注意が必要です。
「自分の計算が合っているか不安」「税理士に頼む前に概算を知りたい」という方は、まず『簡単相続ナビ』で正確な資産価値を把握することから始めましょう。


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