土地の評価金額の求め方(山林編):3つの区分判定と詳細計算シミュレーション

「亡くなった父が、田舎に山林を持っていたらしい」

「固定資産税の通知書に『山林』とあるが、評価額が予想以上に高い気がする」

相続の手続きを進める中で、こうした戸惑いを感じる方は少なくありません。現金や上場株式と異なり、不動産、その中でも「山林」の評価は非常に特殊で、一見しただけではその価値(相続税評価額)がわかりにくいものです。

最も注意すべきは、**「ただの山だと思っていたら、税務上は『宅地』並みに高く評価され、高額な相続税がかかった」**というケースです。これを防ぐためには、ご自身の山林がどの「種類」に分類されるかを正しく理解し、適切な計算方法を知る必要があります。

本記事では、山林の3つの区分(純山林・中間山林・市街地山林)の見分け方から、計算の鍵となる「宅地造成費」の最新データ(令和6年分)を用いた計算シミュレーションまで、徹底的に解説します。

目次

1. 山林の相続税評価は「3つの区分」で決まる

まず大前提として、相続税における山林の評価は、その山林がどこにあるか、どのような状況にあるかによって、国税庁が定める3つの区分に分けられます1

ご自身の山林がどれに当てはまるかで、計算式も、最終的な評価額も天と地ほど変わります。

① 純山林(じゅんさんりん)

  • 特徴: 市街地から遠く離れた、いわゆる「奥山」です。宅地への転用が見込めない地域にあります。
  • 評価への影響: 一般的に評価額は低くなります。
  • 計算方法: 倍率方式

② 中間山林(ちゅうかんさんりん)

  • 特徴: 純山林と市街地の中間に位置する山林です。都市近郊やリゾート地周辺などが該当し、売買価格の水準が純山林よりやや高い地域です。
  • 評価への影響: 純山林よりは高いですが、宅地ほどではありません。
  • 計算方法: 倍率方式

③ 市街地山林(しがいちさんりん)★要注意

  • 特徴: 宅地開発が進んでいる地域(市街化区域内など)にある山林です。現状は木が生い茂っていても、木を切って整地すれば「宅地」として利用できるため、潜在的な価値が非常に高いとみなされます。
  • 評価への影響: 極めて高額になるリスクがあります。 純山林の数十倍〜百倍の評価額になることも珍しくありません。
  • 計算方法: 宅地比準方式(または倍率方式)

2. あなたの山林はどれ?区分の調べ方

「見た目」だけで判断するのは危険です。必ず国税庁が公表しているデータを使って判定します。

  1. 「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」にアクセスする国税庁のWebサイトにある「路線価図・評価倍率表」を開きます。
  2. 住所を選択する評価したい山林がある都道府県 → 市区町村 を選択します。
  3. 「評価倍率表(一般の土地等用)」を見る表の中に「山林」という欄があります。ここの記載を確認してください。
倍率表の記載該当する区分
「純」 〇〇倍純山林 です。
「中」 〇〇倍中間山林 です。
「比準」 または 「市比」市街地山林 です(宅地比準方式)。
「市」 〇〇倍市街地山林 です(倍率方式)。

もし、倍率表に「比準」と書かれていたら、次章で解説する複雑な計算が必要になります。


3. 【純山林・中間山林】倍率方式による計算

純山林と中間山林の場合、計算は非常にシンプルです1

相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

  • 固定資産税評価額: 毎年春に役所から届く「固定資産税 課税明細書」に記載されている「価格」や「評価額」の欄を見ます(※実際に支払っている税額ではありません)。
  • 倍率: 先ほどの「評価倍率表」に記載されている数値です。地域によって「40倍」「80倍」など異なります。

計算例:

  • 固定資産税評価額:10万円
  • 倍率表の記載:純 50倍
  • 相続税評価額 = 100,000円 × 50 = 5,000,000円

4. 【市街地山林】宅地比準方式による計算と「宅地造成費」

最も難易度が高く、かつ金額が大きくなるのがこのパターンです。「宅地比準方式」とは、「もしこの山林を造成して宅地にしたらいくらか?」 を計算し、そこから 「工事にかかる費用(宅地造成費)」 を差し引く方法です6

相続税評価額 = (宅地としての評価額 – 宅地造成費) × 地積

この計算式には2つのステップがあります。

STEP 1:その山林が「宅地」だとしたらいくらか?

まず、山林が面している道路の「路線価」を調べます。そして、その土地の形や奥行きに応じた補正を行い、更地の宅地としての単価を算出します。

(※路線価が設定されていない地域の場合は、近隣の宅地の評価額を基準にします3)

STEP 2:「宅地造成費」を引く(節税のポイント)

山林を宅地にするには、木を切り(伐採・抜根)、土を平らにし(整地・土盛)、崩れないように壁を作る(土止)必要があります。これらの費用は相続税評価額から「控除(マイナス)」できます。

この「宅地造成費」を漏れなく計上することが、正しい評価額を算出し、無駄な税金を払わないための最大のポイントです。

【最新データ】令和6年分 宅地造成費(東京都の例)

国税庁は毎年、この工事費の基準額を定めています。令和6年(2024年)分の東京都における基準額は以下の通りです5

① 平坦地の造成費(傾斜が3度以下の場合)

個別の工事ごとに費用を積み上げます。

工事種目金額(1㎡あたり)内容
整地費800円凸凹の地面を地ならしする費用
伐採・抜根費1,000円樹木を切り、根を除去する費用
地盤改良費2,000円湿地など軟弱な地盤を改良する費用
土盛費7,500円 (/㎥)土を搬入して嵩上げする費用
土止費82,000円擁壁(ようへき)を設置する費用

② 傾斜地の造成費(傾斜が3度を超える場合)

傾斜地の場合は、整地や土止めの費用がパッケージ化された金額を使います。傾斜がきついほど、工事費が高くなる(=控除額が増える)仕組みです。

傾斜度控除できる造成費(1㎡あたり)
3度超 〜 5度以下21,700円
5度超 〜 10度以下26,100円
10度超 〜 15度以下40,900円
15度超 〜 20度以下57,800円
20度超 〜 25度以下63,900円
25度超 〜 30度以下68,900円

※この傾斜地の金額には「伐採・抜根費」は含まれていないため、別途1,000円/㎡を加算できる場合があります5

宅地造成費の計算シミュレーション

例:東京都内にある 500㎡ の市街地山林。傾斜度は 15度。

路線価による宅地としての単価は 10万円/㎡ とする。

  1. 宅地としての価値:100,000円 × 500㎡ = 50,000,000円
  2. 宅地造成費の控除:(傾斜15度の造成費 40,900円 + 伐採抜根費 1,000円)× 500㎡= 41,900円 × 500㎡ = 20,950,000円
  3. 山林の相続税評価額:5,000万円 - 2,095万円 = 2,905万円

このように、約2,100万円もの評価減が可能になります。もしこの控除を忘れると、5,000万円に対して課税されることになり、税額に数百万円の差が出ることになります。


5. 「地積規模の大きな宅地の評価」という特例

さらに、市街地山林の面積が広い場合(三大都市圏で500㎡以上、それ以外で1,000㎡以上など)、「地積規模の大きな宅地の評価」(旧:広大地評価)という特例が使える可能性があります7

これは、「広すぎる土地はマンション用地や分譲住宅用地として開発する際に、道路や公園を作る必要があり、有効宅地部分が減るため、その分安く評価してよい」というルールです。

適用できれば、評価額がさらに20%〜30%程度下がる可能性があります。

ただし、この特例を適用するには、以下の条件などを満たす必要があります8

  • 路線価地域(または倍率地域の一部)にあること
  • 市街化調整区域ではないこと
  • 工業専用地域ではないこと
  • 戸建住宅用地としての分割分譲が想定されること(※マンション適地などは対象外になることも)

6. 手計算のリスクと「簡単相続ナビ」の活用

ここまで解説した通り、山林の評価、特に市街地山林の評価は極めて複雑です。

  • リスク1:区分の判定ミス倍率表の読み方を間違え、市街地山林なのに純山林として申告してしまうと、税務調査で追徴課税を受けます。
  • リスク2:宅地造成費の計算ミス傾斜度の測定や、該当する費用の選定(土止費が必要かどうかなど)は専門知識が必要です。控除を少なく見積もると、本来払わなくてよい税金を払うことになります。
  • リスク3:法改正への対応造成費の単価は毎年改定されます。ネット上の古い記事の数字を使うのは危険です。

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『簡単相続ナビ』は、Web上でいくつかの質問に答えるだけで、複雑な土地評価を含めた相続税の総額をシミュレーションできるシステムです。

  • 特徴1:最新の税制・路線価データに対応令和6年分の造成費データなどもシステムが考慮します。
  • 特徴2:市街地山林のリスクを可視化「ここは高くなる可能性があります」といったアラートで、資産凍結や納税資金不足のリスクを早期に発見できます。
  • 特徴3:プライバシー保護誰にも知られずに、ご自宅で何度でも試算が可能です。

山林という「見えない資産」の価値を正しく把握することは、円満な相続への第一歩です。まずはシミュレーションで、現状を把握してみませんか?


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この記事を書いた人

ミラーマスター合同会社代表社員の鏡 孝正です。
私たちは、専門家任せになりがちな「相続」を、皆様がご自身の手でコントロールできるべきだと考えてます。
弊社のシステムコンサル技術を結集した『簡単相続ナビ』
で、ご家族の「安心の相続」をサポートします。
詳細は、https://mirror-master.com/about/founder-profile/をご参照下さい。

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